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たぶんサッカーの話が多いです。

【U-20W杯】日本を踏み台にしていった3カ国、初優勝を狙う三匹獅子【ベスト4プレビュー】

U-20ワールドカップは準々決勝までを消化し、ベスト4が出そろいました。残っているのはウルグアイベネズエラ、イタリア、イングランド。奇しくも、日本代表から勝ち点を奪った3カ国がそろい踏みすることになりました。

日本代表はラウンド16で負けてしまったので、世間の関心は一気に薄れてしまっていることと思います。実際、私もしばらく立ち直れず、ぼーっと他会場の試合を見たり、定番の観光をしたり、まとまりのないブログ記事を書いてみたりしました。

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ただ、どうせ帰国しても暇なので最後まで見ようと思い、決勝の翌日に帰りの航空チケットを取っています。

自分に気合を入れる意味でも、せっかく複数回みたチームばかりが勝ち上がっていることですし、レビュー的なものを書いてみようと思います。

一部の試合しか見ていませんし、取材をしたわけではないので「主観」です。(すべての記事は主観ですが、参考にできる情報がFIFA公式くらいしかないのでなおさらです)

 

古豪ウルグアイ×新興国ベネズエラ(6/8 17:00~)

フル代表の第1回ワールドカップ優勝国として知られる古豪のウルグアイに、これまで一度も本大会に出場したことのない新興国ベネズエラが挑むという構図。もっとも、世代が限定されたU-20チームには、そんな伝統的な序列などないようです。

この大会に向けた南米予選のファイナルステージでは、ベネズエラウルグアイに3-0で圧勝。リーグ戦で順位が決まるため、優勝こそウルグアイに譲りましたが、直近の直接対決ではベネズエラが優位に立っています。

奇しくも、日本代表が今大会で敗戦を喫したチーム同士というめぐり合わせになりました。体感としてはウルグアイのほうが強そうでしたが、そこはグループステージとトーナメントの違いもあるでしょう。ここで日本が再戦していれば……と考えながら見るのも一興かと思います。(過去の思い出を引きずるタイプ)

 

堅守と切れ味のウルグアイ

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グループリーグ3試合とラウンド16を無失点で切り抜けた「堅守」が強みのウルグアイ。カギになるのは[4-1-4-1]のインサイドハーフの働きです。心臓とも言えるポジションを担うのはMF20ロドリゴ・ベンタンクールMF8カルロス・ベナヴィデス。相手の中盤に激しくプレッシャーをかけ続け、中央からの攻撃を完全に寸断します。

とりわけMF20ベンタンクールは、ボカ・ジュニアーズからユベントスへの移籍が決まっている大会前からの注目株。出場停止で不在だった準々決勝のポルトガル戦で、ウルグアイが2失点しているところからも、この選手への依存度が高いことが察せます。

しっかり守備の規律を守るタイプなのでオンザボールでは目立たない場面も多いですが、ときおり見せる持ち上がりは「そこかー」という感じでセンスありました。セリエAの現代型インクルソーレって感じで、意外とサイドでも輝けるタイプ。

そんな中央を避けて相手がサイドから攻めるとなれば、立ちはだかるのはセンターバックの2枚、DF2サンティアゴ・ブエノDF18アグスティン・ロゲルです。とにかく空中戦に強く、危ない場面ではピッチ外に蹴り出すこともいといません。なぜならコーナーキックで失点する気配がありませんから。(うらやましい)

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攻撃はサイドを広く使った形。MF11ニコラス・デラクルスのドリブル突破はとても脅威で、ボールから足がほとんど離れないのに凄まじい速度で前進します。これが懐というやつか。あと、左サイドバックDF5マティアス・オリベイラは個人的な今大会最高のサイドバック。でかくて、走れて、クロスが鋭利。日本戦ではゴールまで決めてしまいました。

トーナメントでは、圧倒的な堅守に下支えされた、明確な武器を持っているチームが勝ち上がるのが常。そういう意味でも優勝候補の最右翼と言えると思います。

 

「個」ではナンバーワンのベネズエラ

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これまで5試合で13得点1失点。1試合平均2点以上の圧倒的な攻撃力に加えて、90分間では一度もゴールを割られておらず、こちらも堅守が目立つデータです。しかし、細かく内容を見ていくと、13得点のうち7点はグループステージのバヌアツ戦で記録。その他は1~2点差をモノにしており、僅差で勝ちを目指していくスタイルです。

[4-2-3-1]で組んだチームの強みは、とある記事で「ファンタスティック・フォー」と名付けられていた前線の4枚。空中戦だけでなくシャドーの動きもこなせる長身のFW9ロナウド・ペーニャ、158センチの小兵ながら太い体幹に高い技術を生かして常にスペースでプレーするMF10イェフェソン・ソテルド、自信あふれる単独突破と力強いキックで存在感のあるMF7アダウベルト・ペニャランダ、大柄なのに加速力があってクロスにも飛び込める近代型ウインガーMF19セルヒオ・コルドバです。

もっとも、この選手たちがガンガン前に出て行くかというと、そういう戦法ではありません。むしろ、じっくりじっくりと得点機会をうかがいながら刃をちらつかせ、相手が疲れた時間帯になってからグッと圧力を強めます。トーナメントに入ってからの2試合、守備では相手のミスに助けられるような場面が見られましたが、課題があるからこそ比重を置いているのでしょう。

守備のキーマンはボランチMF8ヤンヘル・エレーラ。自由気ままに動き回る前線の背後のスペースにはどこでも顔を出してこぼれ球を拾い、相手がドリブルで突っ込んで来ようものならバチバチ潰しに行く。そんなスーパーマンです。ボールを扱わせれば意外にうまく、日本戦では打点の高い垂直飛びヘッドで決勝点までゲット。この大会で最も目立っているタレントです。(主観)

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また、ベネズエラには大勢のサポーターという後押しもあります。苦しい母国情勢の影響でもあるのでしょうが、毎試合後には涙を流して喜ぶ観客もいました。

https://www.instagram.com/p/BU6uw_cFclW/

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ラファエル・ドゥダメル監督も準々決勝・アメリカ戦の試合後、涙目になりながらインタビューに答え、スタンドのサポーター(?)のもとまで現れ、何度も何度も抱き合っていました。

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準々決勝はお互い、延長戦の末に勝ち上がり。いつもは守備から入る両チームですが、消耗も大きいため普段より早く勝負に出るかもしれません。そうなれば、基本的な守備組織の能力が高いウルグアイ有利といったところでしょうか。

 

駆け引きのイタリア×筋肉攻勢のイングランド(6/8 20:00~)

端正な顔立ちとすらっとした風貌で抜け目のない駆け引きをする伝統的なスタイルのイタリアと、相手がどんなやり方でもドカーンと蹴ってバチーンとぶつかるこちらも伝統的なスタイルのイングランドの対戦。日本にもファンの多い両チームではありますが、育成年代の国際大会での好成績は少ないという共通点があります。

イタリアはなんと、初めてのベスト4進出です。若手を早々から抜擢する国内リーグ戦のシステム的にもこの大会への優先度は低く、この20年間で開かれた10回の本大会で出場したのはわずか3回目。前回の出場は2009年、ロンドン五輪と同じ世代で、ACミランのボナベントゥーラなどが出ています。

イングランドは24年ぶりのベスト4進出。イタリアほど出場回数は少なくありませんが、やはりテンションは低いらしく、本大会で勝利を収めたのは1997年大会以来だそうです。ちなみにベスト4に入った1993年はマンチェスター・ユナイテッドにいたニッキー・バットが出場。懐かしすぎる。また、その大会の得点王はブラジル代表のアドリアーノ。ちなみに、2000年代初めに浦和レッズに来たほうの人です。

両チームは欧州予選の準決勝でも対戦。そのときはイタリアが本大会でもヒーローになりつつあるディマルコ(後述)の2ゴールで勝利しています。

 

とにかく勝負強かったイタリア

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ここまで5試合で9得点6失点のイタリア。特筆すべきことはないスタッツですが、2-0の南アフリカ戦を除く4試合が1点差以内と、ギリギリの勝負をモノにしてきています。ラウンド16では欧州王座のフランスにリベンジを達成し、燃え尽きが懸念された準々決勝も延長戦の死闘を制しました。

私にとっては、グループステージの3試合に加えて準々決勝・ザンビア戦の4試合と、今大会でも最もよく見てきたチーム。ウルグアイに対してハイ・インテンシティーな90分を繰り広げた初戦に始まり、ゆるゆるの試合でも2得点で完勝した南アフリカ戦、手馴れた談合スタイルで引き分けた日本戦、そして数的不利をひっくり返したザンビア戦と、どれも「ああ、これがイタリアか」と思わせる勝負強さがありました。

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攻撃は[4-3-3]で、左で作って右で刺すという形。左サイドバックDF14ジュゼッペ・ペッツェッラはクロスの精度が高く、右ウイングのFW7リッカルド・オルソリーニは得点ランクトップタイの4点を叩き出しています。プレミアリーグセンターフォワードっぽいFW9アンドレア・ファヴィッリに当てる形もあり、サイドが生きる形に仕向ける論理性も備えています。

守備はとにかくコンパクトな陣形を保ち続け、我慢強いスライドとチェイシングで対応するという、非常に合理的なゾーンディフェンス。そのため目の前の相手に引っ張られた結果のFKと警告が多く、緩急のあるドリブル突破とミドルシュートに弱いという側面もありますが、最後はGK12アンドレア・ザッカーニョが立ちはだかります。

個人的には、このゾーンディフェンスは「グループ戦術ではなく個人戦術なのだな」という印象を持っています。ほとんどの選手が首振りで位置確認をしている一方で、相手のドリブル突破に混乱するシーンが見えるため、約束事で管理しているタイプのバグではないためです。

ただ、そのおかげでスクランブルにはめっぽう強い。ザンビア戦で10人になった後に見せた[4-1-1-3]の守りは、数的不利のお手本にしたいほどの完成度でした。

また、DF14ペッツェッラが退場した後に出てきたDF3フェデリコ・ディマルコがまさかの1ゴール2アシスト。強烈かつ高精度なキックはFKでもクロスでも脅威です。グループリーグには不在で合流したばかりとのことですが、前述のように、イングランドは彼に苦い記憶もあるため警戒が必要です。

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その左足はコーナーフラッグも粉砕するほどの威力……。(カッサーノを思い出した)

 

とにかく蹴る走るのイングランド

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イタリアが勝負強さと駆け引きなら、イングランドの伝統は肉弾戦。グループステージ初戦では、地上戦で豪快に攻めるアルゼンチンを相手に空中戦を展開し、力の差は少ないながらも3-0の大勝を収めました。

その後はすべてが1点差ゲーム。グループ第3戦では開催地で勢いに乗っている韓国をひねり切ったと思えば、明らかに力量に差があるコスタリカと2-1の接戦を演じるなど、いまいち強さが見えてこない感じがします。

システムはもちろん伝統の[4-4-2](攻めは[4-4-1-1])。攻撃は敵陣深くにロングボールを蹴り込んで、裏に抜けるかこぼれ球を拾うかの2択というマッチョイズムスタイルです。選手選考もかなりフィジカルに偏っている様子で、ベッカムオーウェンみたいな要素は欠片もありません。

近年のプレミアリーグイングランド人が筋肉を見せて底支えしつつ、南米や欧州他国が技術で差を付けるというスタイルが一般的。それなら前者を供給するのは俺たちの育成や!というザ・フットボールアソシエーションの心の声が聞こえてきそうです。

筋肉部隊の最右翼はチェルシーからリパブールに移籍が決まったというトップ下FW10ドミニク・ソランケ。トテナムのデレ・アリっぽい雰囲気もあるんですが、どちらかというと「前にいる砲台」という感じで、左右にドカーンと散らす役割をしています。

最前線に入るのはFW9アダム・アームストロング。その名のとおりフィジカルとスピードでぶち切っていくタイプで、セリエAフォワードとかに居そうです。シュートがめちゃくちゃ下手なのが趣たっぷり。コスタリカ戦で2得点のFW11アデモラ・ルックマンも名前どおりに視野狭い感じが魅力です。

その中で最も融通が利きそうなのは、ボランチMF7ジョシュ・オノマー。鋭い走りから繰り出すタックルでボールを奪えるのが強みですが、ガラ空きになりやすい中盤を一人で担当しています。

こういう見方は不適切なのかもしれませんが、先発組は白人選手と黒人選手が半々。ほとんどの場面で左サイドと右サイドにくっきりと分割されているのでなにか狙いがあるのでしょうか。ただ、能力や個性はあまり変わらないので、見た目くらいにしか影響はありません。

 

お互いの国家的な因縁はなさそうですが、それぞれ異なる伝統的な個性を持ち合う両チーム。イングランドにとっては個人技でイタリアの守備網を破れるか、イタリアにとってはイングランドの組織の乱れを的確に突けるかという点が注目になりそうです。

 

(プレビューのくせに1試合目の途中で更新するという堕落っぷり)