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たぶんサッカーの話が多いです。

薩摩隼人(?)の技巧弾と、剛毅な試合運びでウノゼロ勝利 【J3第24節 大分×鹿児島】

今季もシーズンパスを更新していたが、ようやく初参戦。

仕事の都合でなかなかスケジュールが合わせられなかった……というのは言い訳で、やはりJ3に降格してモチベーションが下がっていたのが本音。でも終わってみれば、来て良かったと心から思う。

 

試合にむけて。

2位の大分トリニータにとっては8月のリーグ戦中断後、2勝1分けの3得点0失点と好調のなかで迎えた一戦。ここで勝って入れ替え戦圏内を固めるとともに、首位・栃木との差をできるだけ詰めたいところだ。

 

一方の鹿児島ユナイテッドは、大分と勝ち点で並ぶ3位に位置するものの、ホームスタジアムの鴨池陸上競技場の改修で客席が不足し、来季のJ2ライセンス不交付(=昇格不可)が決まったばかりだった。

最大の目的を失ったということで、モチベーションの違いは明らか。クラブに近い鹿児島県民に聞いたところ、これまでも客席不足問題は認識されており、「なにをいまさら」が表向きな反応という。

それでもいざニュースになれば一挙に注目が集まるわけで、精神面への影響は「落ちてなかったとは言えない」とのこと。実際、鹿児島サポーターからはこの日、意味深でエモーショナルな横断幕が出ていた。

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ここで思い出すのは2012年のギラヴァンツ北九州

三浦泰年監督の就任を機に上り調子となった前年の8位で勢いを付け、開催初年度のJ1昇格プレーオフ出場を手中に収めつつあった時期に、席数不足によってJ1ライセンス不交付が決定。

監督が敗戦後の記者会見で「我々はいろんな意味で死んでしまった」と発言するなど、Jリーグ界隈に強いインパクトを残した。*1

 当時の北九州は地域のヤンキー的風土を体現するかのごとく、やんちゃ系な選手が監督に尻を叩かれながら、ピッチ上で「デュエル」を繰り広げる*2―というキャラクターが立っていて、サポーターじゃない自分にとっても気になる存在だった。

今回の鹿児島はロングカウンターを武器に、J3参入初年度ながら上位に位置しているチーム。パス本数はリーグ下位ながらエース藤本憲明が得点ランキング首位に立っているなど、豪快な展開で勝負を決めるという「日本人好み」なサッカーをしているようだ。

試合前はそんなことを考えながら、応援したいチームだったらどうしよう……と妙な心配をしていた。

 

キックオフからの動き。

前半は一進一退の攻防。コンパクトな陣形の両チームとも、相手守備陣のギャップと裏を駆け引きし、「負けてはならないが、なんとかして勝ちたい」という気持ちがうかがえた。なかなかハイレベルだ。

もっとも、ここはJ3。ボールタッチでのミスに加え、陣形に生じたほころびも出てくる。押し気味だったのは対人戦で上回る大分だったがゴールまでは至らず、鹿児島のロングボールの対応を誤って大ピンチを招く場面もあった。

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空中戦の競り合いを読み違えるJ3的ジャッジに、後藤優介が謎ジェスチャーで食い下がる場面もあった。頼もしいけど頼もしい気がしない(!)

 

ここまで目立っていたのは2トップの一角に入った三平和司。相手ディフェンスを背負えば柔らかいタッチで収め、前を向けば冷静な視野でボールをさばく。ファイター的な側面が注目される選手ではあるが、田坂体制時代から安定した信頼を得てきた選手は“違う”と感じさせられた。

また、“違う”といえば松本昌也。「こんな選手だったっけ?」と信じられない思いである。相手との競り合いから必要以上に逃げず、守備でも追いかけるだけでなくしっかり当たる。重要なところで「闘える」選手になっている。

以前はスペースでボールを受ける強みを生かそうと、オフザボールに運動量を使いすぎている部分があった。トップ下やボランチならばそれでも良いのだが、サイドプレーヤーは攻撃に向かえば向かうほどボディコンタクトを避けられない。スピードでなく技術で勝負するならなおさらだ。

弱冠21歳の彼が得てきたものは、U-19日本代表として2度のAFCアジア選手権に出場したJFAアカデミー出身のエリートプレーヤーが、これまで下位に甘んじるクラブのなかでも出場機会を得られない苦しみと戦いながら気付いた、プロの世界を生き抜く解なのだろうと思う。

ただ、いまのままでは彼にかかる役割は多すぎる。さすがのプレーで試合を動かす八反田康平、ようやく安定感が出てきた姫野宥弥の支えはもちろん、数年前の松本昌と同じ課題を坂井大将が克服し、ゲームメーカーとして稼働することを期待したい。

 

ようやく先制点が入る。

大分が優勢に試合を運んだ後半、松本昌也と清本拓己の波状攻撃など着実にゴールに近付いてきたなかで、ようやく先制点が舞い込む。

決めたのは後藤優介。今季はここまで9得点、「俺たちのゴレアドール」というチャントがようやく板に付いてきた新エースの個人技だった。

中央に絞った松本昌也がスペースで上手に収めて、「あとは任せた」とばかりに左サイドへ浮き球パス。受けた後藤が柔らかいトラップからカットインすると見せかけ、正確なキックに定評のある右足を一閃。ファーサイドへの軌道を確認した瞬間、GKの手が届かないと確信できるようなゴラッソだった。

 

「後藤さん」のこと。

節目の2桁ゴールは何の因縁だろうか。後藤はこの日の敵国・鹿児島県のサッカーどころ鹿屋市出身、高校入学時に大分U-18に活路を見出して単身やってきた県外育ちのユースっ子である。

彼は薩摩隼人と呼ぶには豪快さに欠けるし、ゴレアドールと呼ばれるほどラテンな性格でもない。実際、ユース時代も性格の面で上下関係に苦しんだという話をよく耳にするし、これまで期待を寄せられながらアピール力に欠ける点も皆が認識するところだ。

一方で、彼ほどファンに愛される*3キャラクターにもなかなか出会えない。それは高校3年時にプリンスリーグ九州で得点王を獲得した実力は言うまでもなく、絶妙なユーモアで繰り出される行動(奇行?)と憎まれ口に注目が集まるためでもある。

彼のパーソナリティーについてはエルゴラッソのブログ版「ブロゴラ*4で垣間見ることができるが、これからは技術にも注目が集まってほしいと切に願います。

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なんだこの癒される構図は。

 

どう守るのか、そのうえで、どう攻めるのか。

先制してからの大分は守りに軸足を置きながら、カウンターで追加点を狙う姿勢にシフトした。

最終ラインを下げて守備の人数を確保するという基本方針をしいたうえで、前線で身体を張れる伊佐耕平に加えて、組み立てを担う山岸智に代えて左利きでサイドに幅を作れる山口真司、清本に代えてスピードのある松本怜を入れることで推進力を増したところからも読み取れる。

結果は1-0で終わったので、この剛毅な押さえ込み作戦は成功だったといえる。

 

しかしながら、個人的にはこの采配について賛否が混ざる思いだ。

前提として、1点差を守り切るにあたって最終ラインを下げるのは禁物である。単純に相手の攻撃エリアがゴールに近くなるため、ミスが起こったときに失点をする可能性が高まってしまう。

もっとも、鹿児島のロングボール攻撃は強力だとされているので、何らかの対策を練ることは必要となる。ただ、前半から大分守備陣は背後のボールには的確な対応ができていたため、リスクを考慮すると手入れすべき部分はそこではなかったと考える。

前半を中心に喫した大分のピンチは、背後ではなく中盤のスペースから生まれていた。具体的には、セカンドボールなど予測が難しい処理において、鹿児島の素早いボールアプローチに対するケアが遅れ、効率的に攻め込まれる場面が見られた。

その場合、最終ラインを下げて中盤の厚みを増すことも有効な手立てにはなるが、前述したようなリスクがある。このようなジレンマに陥った際によく使われる善後策が、中盤に長身選手などのアンカーを置いてスペースを消すことである。

もちろん、練度が十分でない策を試合中に使うことなどあってはならないし、アンカーを置くことで攻撃への迫力に欠けることも起こりうる。それでも、修行智仁のビッグプレーがあったこと込みでの結果論でしかないが、1-0の場面で最終ラインを割り切って下げる危険性は強く感じた。

 

振り返って。

これまでは「J3どんなもんだ」と覚めた目で見ていた部分もあり、試合結果こそ注意をしながら追っていても、ここまで見所のある試合が見られるとは思っていなかった。

たった1試合観ただけで片野坂知宏監督の手腕に言及する気もないが、チームが良い循環で回っていることくらいは確認できてよかったと思う。

自分は結果ばかりを追求するタイプではないと思っていたが、試合を見に来るモチベーションが低かったことを振り返れば、結局は自分も「上位カテゴリに上がらないなら見に行かない」的人種の一類型なのだと思う。

なので、せめてもの罪滅ぼしとして、もうちょっと冷めた目線を置いといて、素直な気持ちで応援していきたいなと思います。

 

それよりも。

問題はユースである。

別に責任問題についてあれこれ言うつもりはないけど、どうしてこうなってしまったのかをずっと考えている。そのうち書いておくつもりではあるが、いまはとにかく結果が必要だと思う。やれることをみんながやってほしい。みんな頼むぜ。

*1:のちに「あれは選手を盛りたてるためのパフォーマンスだった」という話を関係者から聞いた

*2:反則ポイントも荒稼ぎしていた

*3:ほっとけないとも言う。

*4:後藤優介タグは伝説的におすすめです。