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たぶんサッカーの話が多いです。

【2017トリニータ第1期(1~11節)評価】あえて昇格を狙わない、という生存戦略

気が付けば第12節が目前に迫り、42試合で戦う2017年のJ2リーグ戦も4分の1を消化していました。

四半期決算というわけではないですが、これまでの戦いを整理しておこうと思います。

 

試合結果

ここまで5勝2分4敗勝ち点17。22チーム中『11位』とちょうど真ん中あたりにつけています。J3からの昇格組としては上々の立ち上がりでしょうか。

アビスパ福岡湘南ベルマーレという昨季J1所属のチームに勝利を収めた一方、東京ヴェルディ徳島ヴォルティスといった新監督のもとでモダンなサッカーを展開しているチームに敗戦。もっとも、レノファ山口ロアッソ熊本ツエーゲン金沢など下位相手に取りこぼしていないのは評価できる点です。

当初は3バック相手に勝てないというデータも出ていましたが、最近はその傾向も逆転。ギャップを作れれば勝ち、ギャップを作られれば負けといった感じで、もっとシンプルに受け入れたほうが良さそうです。

 

ここまでの戦い方

スタートの布陣は11試合ともに[3-4-2-1]。大分にとっては昨季の終盤から継続しているシステムで、片野坂知宏監督が広島時代に薫陶を受けたであろう「ミシャ式」と呼ばれるものです。

あえてレギュラーポジションを与えるとすれば、以下のような陣容になるでしょうか。

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今季の大分の特徴は「とにかくつなぐ」こと。それはデータを見れば一目瞭然です。

Football LABが集計したリーグ戦順位では、パス回数4位ボール支配率5位と好順位。ボールを大切にしながら手数をかけて攻撃していることが表れています。そういった思想はクリア回数19位スローイン回数20位にも見て取れるでしょうか。

また、30メートルライン進入回数41.4(4位)、攻撃回数129.5(20位)=いずれも1試合平均=というのは一見矛盾しているようで面白いデータです。

30メートルライン進入回数はその名の通り「敵陣深くに攻め込んだ数」、攻撃回数は「自ボール→敵ボール」の回数を示しています。

すなわち、攻撃を終わらせる回数が少なく、敵陣に攻め込む回数は多いということになっています。また、攻撃の3分の1が相手ゴール近くにまで及んでいるのも特筆すべき点でしょう。(リーグ平均は37.1/136.4です。)

 

もっと具体的に……

大分の攻撃を具体的に言えば、以下のような仕組みになっています。

①攻撃のスタート地点はGK21上福元直人が担い、最終ラインの3人とボランチの1枚と一緒にパスを回し、相手のプレスをかわします。

②もう1枚のボランチとシャドー2人が頻繁に動いて、相手守備陣の間でボールを受けます。

③前を向ければターンしてドリブル(→④)、サイドが空けばウイングバックに落とす(→⑤)、ワントップが降りればフリックで預ける(→⑥)という選択をします。

ミドルシュートか、敵陣深くでサイドを使ってクロスを狙う。

⑤クロスからのシュートを最優先にゴールを狙う。

⑥フリックが通ればすでにチャンスなのでシュートを狙う。

もちろん、相手のラインがあまりに高ければ大きな展開を狙うこともありますし、カウンターでは相手の人数により事情が違ってきます。(ボランチからサイド深くにロングボールを配給するのが基本方針です)

このあたりのシステマチックな攻撃を構築したところが、片野坂監督最大の功績であって、今後のトリニータのプレーモデルとなり得る財産だと思います。

 

各ポジション別評価

これまで18人の選手が先発に名を連ね、23人の選手が出場しています。負傷者が多く出ているのでレギュラー争いが加熱しているとは言い難いですが、それぞれのキャラクターは理解されつつあると思います。

ゴールキーパー

第2節まで先発だったGK31高木駿(ロングフェイス!)に代わって、第3節からGK21上福元直人がフル出場。理由は前述のように、GKからパスをつなぐサッカーをしており、足元の技術の高さが求められるためでしょう。

もっとも、ここ数試合のGK21上福元はシュートブロックの回数も多く、キャッチングも安定してきているように思います。単に的確なフィードができるというだけでなく、キックの種類が多いのもありがたいところです。

・スリーバック

J1主力級でフルタイム出場のDF4竹内彬、DF5鈴木義宜に加えて、左利きのDF6福森直也で構成する3バックは対人戦最強。京都の田中という選手を除けば、日本人FW相手に競り負けることはまずありません。

一時期はDF6福森の負傷の影響で、左足がほとんど使えないDF5鈴木義が左ストッパーに回るという血迷い人事もありましたが、ほぼこの3人でレギュラーが固定されていると言って良さそうです。

もっとも、個のクオリティーから見ると、11試合10失点が少ないわけではないのはたしか。それは横からのボールへの対応に課題があるためです。

とくに相手アタッカーにサイドをえぐられてから、いったん自陣方向に戻ったときに、オフサイドラインを上げることができず、クロスを自由に通してしまうという流れが頻発しています。

クロスを上げられるサイドの責任もありますが、このあたりは要修正でしょう。なにより、競れば勝てるんだから、ビビって下がる必要もありません。

ボランチ

第2節まではMF20小手川宏基とMF24姫野宥弥が組んでいましたが、第3節からMF24姫野に代わってMF33鈴木惇が固定。その後、第9節からMF20小手川がシャドーに上がったため、FW48川西翔太ボランチに入っています。

もっともレギュラー争いが熾烈なのはこのポジションでしょうか。MF20小手川は持ち前のスペースを埋めながら、ゲームメイクもできる稀有な選手。後任に受けて良し、さばいて良し、奪って良しのFW48川西が就いたのは当然でしょう。ポゼッションサッカーでこっちの役割は外せません。

問題はもう一方。MF24姫野は鋭いパスは出せないが機動力を生かした対人守備が長所で、MF33鈴木惇は機動力こそないがロングボールで一気にチャンスを作れます。現状は攻撃面を重視してMF33鈴木惇が起用されていますが、穴として使われたときにどう対応するかは今後の注目点です。

ウイングバック

序盤はMF7松本怜が左右どちらかに入り、空くのが右ならDF29岩田智輝、左ならMF16山岸智という形でしたが、MF7松本が第6節にハムストリングを負傷。MF15清本拓己も前十字靭帯負傷で離脱しているため、ずっと先発が固定されない状況です。

ここ最近はクロスを絶対に相手にぶつけず、ドリブルでもキレキレのMF16山岸が左サイドのポジションを確定。右は精細を欠いておりU-20W杯でも落選したDF29岩田と手にギプスをはめながらなぜかシュートを撃ちまくるDF14岸田翔平が争っています。

個人的には守備面を考えてDF29岩田で固定してほしい思いがありますが、彼にとってはここが勝負どころ。出場機会をつかむため、一皮むけてくれることに期待します。また、MF16山岸はフルタイムは厳しいため、途中出場でMF17國分伸太郎、DF3黒木恭平が起用されることが多くなっています。

・シャドー

「高卒フォワードは5年目がカギ」のジンクスどおり、昨季のJ3で14得点と殻を破ったFW9後藤優介が全試合で先発。チーム最多の3得点を挙げており、さすがといったところです。

一発で前を向けるターン、一人でカウンターを完遂させてしまう馬力、どんなボールでも収められる技術、たまに決まるスーパーミドルと、「エース」と呼ぶにも十分の働きです。大きくなったねえ……。

相方はFW27三平が筆頭候補ですが、けがなどの影響で最近はMF20小手川が入っています。ただ、FW9後藤とMF20小手川のコンビだと組み立ての際に動きがかぶってしまうため、役割分担をきちんとしなければ攻撃が停滞するという課題もあります。

・ワントップ

ゴールへの瞬発性が高い6試合先発のFW11林容平と、類まれな身体能力で10試合出場(先発は4試合)のFW18伊佐耕平が争っている状況。いわば「速く」と「強く」の対決です。

FW11林の特長はロングボールを的確に収めたり、味方に落としたりできること、そして一瞬の動きでゴール前に飛び出してシュートを打てるところです。それぞれ、第3節・山口戦のアシスト、第6節・愛媛戦のゴールに表れているでしょうか。

FW18伊佐の特長は凄まじいスピードの裏抜けと、どんな体勢からも打てる強いシュート、相手DFに対して優勢に張り合えるところです。相手に「こいつを一瞬でも離すと危ない」と思わせることができる身体能力は他にはない才能でしょう。

個人的には前にも言ったように「今年は伊佐推し」でいこうと思っています。一見、ポゼッションサッカーには合わないように見えるかもしれませんが、むしろポゼッションサッカーをしているために必要な人材です。

ポゼッションサッカーではボールさばきの安定感が求められるため、短期的にはミスをしない選手のほうが重宝されます。しかし、ミスが少ないからといって相手に脅威を与えられないようであれば、いつかはスペースを消されてしまい、ミスがなくてもパスをつなげなくなってしまいます。

そんなときFW18伊佐のように、裏抜けと対人戦に強みを持つ選手がいることで、相手の最終ラインが主導権を握ることができなくなります。そこで相手を下げさせることにより、中盤のスペースを空けることができます。パスはつながりやすくなるでしょう。

この流れがあってこそのポゼッションサッカーであり、このチームの中でそれができるのは、現状FW18伊佐だけだと思います。

 

 今後の展望

ここからシーズンの折り返しにかけて、いよいよ夏場に向かっていきます。とくに第18節まではデーゲームが続き、どんどん気温も湿度も上がってきます。そのような環境では、これまで練度を高めてきた「つなぐ」サッカーがさらに効力を増し、さらに試される時期になると考えています。

まずは「試合の主導権を握ることで、無駄な走りを減らすことができる」というメリットが出てきます。「ボールを動かせ、ボールは疲れない」はパトリック・ズワーンズワイクの祖国から伝わってきた言葉ですが、ボールを動かすことは「走るのか、走らされるのか」というメンタル的な側面でも前向きに働くでしょう。

しかし一方では、相手が運動量を落とすために構えて守ってくることによって、「ギャップを作るためのスペースが小さくなる」というデメリットが生じてきます。前述のように、今季のトリニータポゼッションサッカーは「ギャップを作ること」が肝要。その中で、相手がコンパクトな布陣で受け身になった場合、小さいスペースをすり抜けるためにはさらに高度なパスワークが必要になります。

実際、これまで負けた東京V、徳島、京都あたりは、「整った布陣で受け身に回って、ボールを奪った瞬間、一気に出ていく」というタイプのチームでした。プレスをかけてくることもありましたが、それは奪うためのプレスというより、深追いを抑えてミスを誘発するためのプレスです。そういった相手を苦手とするトリニータにとって、夏場は試練の時期になります。

もっとも、だからといってここから戦い方を変えるような気はないと思います。なぜなら、今季は「結果より内容」を求めるシーズンになっているためです。今季のトリニータはあえて昇格を狙わないという戦略を取っています。それは榎徹社長がことあるごとに「まだ昇格を狙う地盤が整っていない。まずは財政を立て直す」といった旨の発言をしていることから分かります。

とはいえ、まったく結果を求めないというわけではありません。そこは「内容から目を背けず、その枠内で結果を出す」というバランス感覚でしょうか。湘南戦や松本戦で見せたマイナーチェンジは、片野坂監督の結果志向が表れたものだと思います。

 

「内容」を追求しながら「結果」は捨てない。そんな感じで、ここで蓄えた経験がいつか花開く、そんな未来を願えるようなシーズンになれば良いですね。(それ以上を願うのは、このやり方を貫いていった結果として、もし後半戦にプレーオフを狙える位置にいた時にでもとっておきましょう)