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たぶんサッカーの話が多いです。

【U-20W杯】はじまりの終わり、10年ぶりの世界経験を56年ぶりの祭典へ【ベスト16で敗退】

20歳以下、すなわち1997年生まれ以降の選手で構成された「U-20日本代表」チームの挑戦が終わりました。結果は、ベスト16。厳しいグループステージをしぶとく勝ち抜いた一方、一発勝負のトーナメントで国ぐるみの課題であるセットプレーに屈し、各所で両面性のある評価がなされていることと思います。

個人的にも「ここまでよく連れてきてもらったな」という思いがありますし、一方で「もっと上まで行ってほしかったな(というか行けただろう)」という思いもあります。そんなオルタナティブな感情をなかなか割り切れないので、記録代わりに書いておこうと思います。まずはベネズエラ戦のことから。

 

典型的な「世界基準」の相手、ベネズエラ

グループステージの3試合を、10得点0失点の勝ち点9で突破したベネズエラ。「黄金世代」との呼び声にふさわしいタレントがそろっており、とくに個性派をそろえた前線4枚の迫力は今大会でもトップクラスです。

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空中戦だけでなくシャドーの動きもこなせる長身のFW9ペーニャ、158センチの小兵ながら太い体幹に高い技術を生かして常にスペースでプレーするMF10ソテルド、自信あふれる単独突破と力強いキックで存在感のあるMF7ペニャランダ、大柄なのに加速力があってクロスにも飛び込める近代型ウインガーのMF19コルドバ

とある記事では「ファンタスティック・フォー」と呼ばれていましたが、まさにフィクションのようなキャラ立ちをした4人。こんな選手たちが都合よく同じ1997年度に生まれたなんて、「キャプテン翼かよ」という感想しかありません。

また、忘れちゃいけないのが、ボランチでキャプテンのMF8エレーラの存在。自由気ままに動き回る4枚の後ろで、「精霊使いであり猛獣使い」とばかりに手綱を握っているのはこの人です。前線が人数を掛けて封じられれば持ち上がって攻撃に参加し、中盤が空いたらすべて潰しに行く。彼の戦術眼があってこそ完成する組織力です。

そんなベネズエラですが、基本的には[4-2-3-1]システムを採用し、個人能力への依存度が高いチームです。攻撃はほとんど4人に他の選手が絡んでいく形で、守備はとにかくボールホルダーへのアプローチが中心。もし対人戦でかわされた場合は、そこからぐっとラインを下げて塹壕戦で対応します。

このあたりの人数をかけたリスク管理型守備戦術は、ワールドカップなどでもよく見る形。国別代表はクラブほど戦術的な練度を高める時間はないため、まずは人数をかけて守ろうという狙いがあるのでしょう。それでもフィジカルとスピードを生かした対人戦はとてもハイレベル、そういう意味でも典型的な「世界基準」と言っても差し支えないようなチームです。

 

入りはビビりまくるも、徐々に落ち着いて

日本の先発はいつもの[4-4-2]。最後尾はいつものGK1小島亨介に、最終ラインは左からDF15杉岡大暉、DF3中山雄太、DF5冨安健洋、DF2藤谷壮。中盤はボランチがMF16原輝綺、MF17市丸瑞希のウルグアイ戦からのコンビで、サイドアタッカーは左がMF8三好康児、右がMF7堂安律というアジア予選でもおなじみの2人。FW9小川航基を負傷で欠くフォワードには、FW13岩崎悠人に加えてFW18高木彰人が入りました。

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序盤はベネズエラの優勢。早い段階でサイドハーフにパスを入れてくるシンプルな攻撃に対して、日本の中盤はなかなか対応できず。何とかボールホルダーに食らいつきますが、大きなストライドでかわされてしまいます。そこで奮闘が目立ったのはDF2藤谷、DF15杉岡のサイドバック2人。奪えなくても抜かせない対応が光りました。

もっとも、最初のチャンスは5分のベネズエラ。DF2藤谷のパスミスを見逃さず、MF7ペニャランダがドリブルで突っかけ、ニアに強烈なシュートを放ちます。左に外れていきましたが、「一瞬でもスキを与えるとまずい」という印象を抱かせるプレーでした。

日本も攻撃に出ようとしますが、中盤に当てたボールをことごとくベネズエラのフィジカルにつぶされ、 徐々にボールの出しどころがなくなっていきます。これを見た内山篤監督は「やれるぞーーーー!自信を持ってやれーーーーー!」と何度も、何度も大きな声で激励します。まさにそのとおり、ここで引いてしまっては今まで積み重ねてきた「判断」が生きる場面もなくなってしまいます。

実際、この指示のとおりに日本も徐々に正気を取り戻していきます。ベネズエラがボールホルダーにアプローチを強めているため、敵陣深くにはスペースがあります。そこを目掛けて前線にボールが出れば、ゴールに近づくチャンスとなります。

そんな最初のチャンスは12分、中盤でようやくアジャストしてきたMF16原が奪ったところでスイッチが入りました。パスを右で受けたMF7堂安がサイドチェンジで左のDF15杉岡へ。えぐって上がったクロスに対して、中に絞っていたMF8三好がボレーで合わせました。こういったサイドハーフの中への動きが日本の一つの攻撃パターンです。

 

カウンターの恐怖と戦いつつ、それでも前に出る

その後は日本がボールを握りつつ、ベネズエラが奪いに来るような展開になります。といっても、ハイプレスをかけてくるわけではありません。しっかりとしたスライドを繰り返しながら、日本のミスを待っているような形です。さすがに190センチ近くの速くて強い人たちが機会を伺っているのは怖いよ……。

ところが、日本も勇敢でした。せっかく奪われるのなら、攻めて失敗したほうがマシだとばかりに、縦パスがよく通るようになってきます。カギとなったのは、ボランチ同士の関係性です。内山ジャパンではボランチ同士のパス交換があまり多くないのですが、それは2人が最終ラインを介してつながっているため。あえて離れた距離を取ってスペースを作ることで、相手の中盤も孤立させてしまい、前線への縦パスを入れやすくする効果がありました。

また、27分には良いカウンターもありました。右サイドの自陣深くで相手CKのこぼれ球を拾ったDF15杉岡が右に走ったFW18高木に縦パス。その落としを受けたMF7堂安が持ち上がり、中央で裏に抜けるFW13岩崎に縦パスを送ります。惜しくもGKにクリアされましたが、この試合で初めて得点の香りがしました。

その直後も日本のチャンスが続きます。ゴール右斜め前でもらったFKをMF7堂安が左足でキック!軌道は綺麗に壁を越えていき、そのままネットへ……と思いきや、クロスバーに阻まれます。そのこぼれ球をFW13岩崎が収めて、左足シュートを放ちましたが右に外れていきました。これも決定機だったが……惜しい。

ここからは日本のペースです。33分、右サイドのユニットでパス交換をしてから、MF17市丸がアーリークロス気味の浮きパス。FW13岩崎がダイビングヘッドで合わせましたが右に外れます。39分、左サイドでのスローインからの流れで、DF3中山とDF15杉岡が縦に抜けて、裏に走ったFW18高木にスルーパス。流し込む形でニアに蹴りましたが、左に外れました。どっちも惜しい!

「やれているし、やられていない」。ここまではそんな上々のペース。0-0は想定したスコアだったはずですが、予想以上に良い形で前半を終えました。

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用兵で刺しにかかるも、及ばなかった後半

日本は後半も前半同様のペースでボールを支配しますが、内山監督が動いたのは54分。ドリブル突破を封じられて個性が出せなかったMF8三好に代えて、MF11遠藤渓太を投入しました。ここからは「右は作って、左は刺す」というイタリア戦のような狙いに切り替わります。

そんな「右で作る」から、この試合で最大の決定機が転がり込んだのは57分。MF17市丸の縦パスからMF7堂安が受け、前を向いたところで裏に走ったFW18高木にスルーパスを送ります。角度を付けた動きに相手ディフェンダーも付いて来られず、FW18高木は相手GKと完全な1対1。ところが、ファーを見ながらニアを狙ったシュートは「読み通りだ」と止められてしまいました。G大阪トライアングルの相性を感じさせましたが、これも「惜しい」止まり……。

思えば前半からの決定機逸は、FW9小川の不在を強く感じさせるものでした。FW13岩崎のヘッドは、本来であればFW9小川が反応していたはずのポジション。そして、このFW18高木のシュートはFW9小川をおとりにして抜け出したFW13岩崎の軸回転があれば……と思わせる難しい体勢でした。つくづく、エースの負傷が悔やまれます。

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日本は63分、さらにリスクを負って前に出ます。前線で身体を張っていたFW18高木に代えてFW20久保建英を起用。敵陣スペースをこれまで以上に突き、そろそろ得点につなげたい構えです。そんな71分には、FW20久保がドリブルで身体の大きな相手を跳ね飛ばし、左サイドで崩してからのMF17市丸ミドルを誘発。その後もMF11遠藤やMF13岩崎とともに推進力上昇に大きく貢献しました。

ベネズエラも随所に強さを見せてきます。MF8エレーラやMF7ペニャランダのミドルシュートが出てきたのは焦れてきた証でしょうが、ボールを持ったときの圧力はさすがの強度。日本は危険なパスミスが続いていたMF17市丸を外し、MF4板倉滉を入れることで高さの面でも対応します。

その後もピンチのような場面もありましたが、縦に入ったボールをセンターバック2人が地道につぶし、サイド突破はサイドバックがしっかりカット。日本はアジア予選を無失点で切り抜けた堅守がようやく戻ってきました。

一方でMF17市丸というゲームメーカーを失ったため、攻撃のスイッチは「久保への縦パス頼み」といった雰囲気。それは久保にボールが入ったタイミングで、内山監督が「よーーーし!そこ入ったーーーー!」と会心の拍手をしていたところからも推測されます。(2本くらいとてもうれしそうでした)

そんなじりじりとした展開のまま後半も0-0で終了。試合前の想定よりもベネズエラがしぶとく戦ってきましたが、日本の奮闘も想定以上です。

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運命の延長戦

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円陣を組んで飛び出した11人が最後の30分間に臨みます。延長戦は新ルールにより交代枠が1つ増えるため、スコアを意識した用兵にも注目です。

最初のチャンスは96分の日本。やはりMF16原からFW20久保への縦パスでスイッチが入ります。ドリブルで相手をかわしたFW20久保は、左サイドのMF11遠藤へ素早くパス。中をよく見て出したグラウンダーのクロスはFW13岩崎に通りましたが、トラップミスでチャンスを逃しました。

まさに狙い通りの攻撃ですが、疲れが出ているようにも思われます。一方のベネズエラは直後、この試合で初めての選手交代。まだまだ余力が残されていることに、あらためて気付かされます。スカウティングでは「終盤に落ちる」という想定があったようですが、ここまで引っ張ったのはある種の解決策だったのでしょう。

102分も日本にチャンス。FW20久保とFW13岩崎のツートップに絡んだMF7堂安がミドルシュートを放ちますが、上に外れてしまいました。決められそうで決められない、まさに嫌な雰囲気が立ち込めてきます。そんな焦りは105分に放たれたMF4板倉のミドルシュートにも表れていました。

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軽い給水の後、延長後半がスタート。すぐにスコアが動きました。ベネズエラの左コーナーキック攻撃はヘディングが外れて失敗に終わったにもかかわらず、ミスジャッジで再びのコーナーキックになったところがスタートでした。

MF16ルセーナが右足で放った鋭いキックは、日本の守備陣が想定していたよりゴールから離れた場所に。ニアサイドで安心したように数人が見送る中で、競っていたのは日本DF5冨安とベネズエラMF8エレーラでした。

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DF5冨安は疲れでジャンプこそ満足にできませんでしたが、しっかりと強い身体を寄せていました。GK1小島もボールを視界にとらえたうえで、きちんと準備が整っていました。それでもMF8エレーラは凄まじい垂直跳びからコンパクトに状態を振り抜き、ニアサイドに向かってお手本のような叩きつけヘッド。完全に「個で上回られた」プレーで見事にゴールネットを揺らし、ベネズエラに貴重な先制点が入りました。

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ベネズエラの選手たちは得点後、ピッチの内外に関係なく殊勲者のもとへ。激しくもみくちゃにされている姿からは、この偉大なキャプテンがチーム内で愛されてきた軌跡を感じさせます。

このMF8エレーラ、これまでの試合でも能力が高いタレントだとは思っていましたが、こんな大事な場面で決定的な仕事ができるという点も含め、やはりこの選手こそがベネズエラの大黒柱なのだと確信しました。

日本はその後、FW13岩崎に代えてFW14田川亨介を入れ、2年後も担えるフレッシュな力にすべてを委ねます。それでもベネズエラは交代カード3枚を次々に投入し、ストッパーモード。日本にはもう、反撃に出る余力は残されていませんでした。

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試合は0-1で終了。

10年ぶりとなった世界への挑戦は、10年前と同じベスト16で幕を閉じました。

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 お疲れ様でした。

 

このチームには戦術がなかったのか

敗因を分析するのは難しいですが、大会を通じて日本チームに足りなかったのは、やはり「個」であったと感じています。「戦術」不足に原因を求める声もありますが、この試合の日本チームは「個」不足を前提とした「戦術」は備えていました。それ以上の「戦術」を求めるには、反対に「個」の能力が足りないと思われます。

それに関連して、軽く昔話をしてみます。私にとってはこのチームを初めて見たのは、U-18日本代表だった2015年3月下旬の大分合宿でした。ちょうどフル代表の試合が同時に行われたことで、報道陣もたくさん詰めかけており、にぎやかな雰囲気だったことを記憶しています。

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みんな、若いな……。

この期間には、ヴェルスパ大分大分トリニータとの練習試合がありました。そちらはサブ組(やユース)が中心だったため、代表チームに優位に立ってほしいところでしたが、あまり良い出来ではありませんでした。

攻撃ではボランチ同士が絡めず、フォワードにボールが出ないため、サイドアタッカーの突破に委ねるのみ。困った選手たちは中途半端なパスを中盤で奪われる機会が多発し、必然的に守備も後手に回るしかありませんでした。

そのとき個人的には「もっとボランチ同士が絡めれば」「もっとフォワードがサポートできれば」という2点が気になったのを覚えています。通常の日本代表と同様に「ボランチが試合を作る」ということを念頭に、「これでどうやって攻撃をするんだ」と疑問を持ちました。しかしいま振り返ってみると、このような考え方は間違っていたように思います。

前述のように、このチームは「ボランチをあえて孤立させて相手を引きつけ、前線への球出しを効率化させる」という狙いを持っています。すなわち、「ボールのないところで相手の守備ブロックを広げ、ゴールに向かって効率の良い一本のパスを狙う」という戦術です。

これは世界の中で日本がそれほど多くのチャンスを作れないことを認識したうえで、少ないチャンスをモノにすることを意識してのものでした。ボランチでボールを握ることの多い日本サッカーですが、それではフィジカルの強い相手からプレッシャーをかけられた場合、高いリスクを負うことになってしまいます。このような戦術を採用することで、よりリスクの低い場所から、より効用の高いプレーをしようという目的が達成されます。

たしかに、チームが組み上がるまでは、苦労もありました。慣れない約束事でパスが満足につながらず、フラストレーションがたまっている場面も見受けられました。また、普通に戦っているような弱い相手に対して難しいことをしすぎているようにも思われ、「このままではアジア予選すら勝てないのでは(実際、4大会も勝てていないし)」という心配も出てきました。

しかし、徐々に仕上がりに近づくにつれて、ボランチからボールを受けたディフェンダーから良いパスが前線に出るようになり、それを見せることでサイド突破も有効化するようになりました。その結果、ワールドカップ出場を決めたアジア予選では、クロスやミドルレンジの縦パスから得点が生まれたのは周知のとおりです。

また、フォワードが中盤へのサポートを我慢するのも同様の論理です。内山監督は小川航基に「点を取れるポジションにいろ」と説得していたそうですが、それに加えて相手の守備陣を低い位置に釘付けにする狙いもあったと思われます。これも「相手を動かす」戦術の一環です。

もちろん、カウンターの整備や奪いどころの見極めなどが足りず、「とうてい練り上げられた戦術とは言えない」といったような見解があるのは否定できません。しかしながら、そこは日本の守備における「個」不足が根底にあると思います。どんなに整ったゾーンディフェンスをしいても、ドリブルで破られてしまえば無意味なわけですから。

この問題を解決するためには、まずはゴールに近い危険なエリアをカバーするようなセットした守備組織が不可欠でありますし、ハイリスク・ハイリターンなカウンター戦術を導入することも難しくなってきます。だからこそ、前述のような飛び道具的な守備戦術に落ち着いたのだと考えます。

以上のような理由から、「このチームにはある程度の戦術はあったが、個のスキルが足りなかった。これ以上に戦術志向を進めるには、さらに個のスキルが足りないため、突き詰めるべきは個のスキルである」といった総括が自分の中では適切であろうと考えています。

この敗戦を生かすのは、56年ぶりに開かれる東京五輪。「日本らしい戦い方」とぼんやりしたノスタルジーではなく、今大会で固まった「日本の立ち位置を認識した戦い方」という価値を失うことなく臨んでほしいなと思います。むろん、監督は誰でもいいんですが。

 

キャプテン、坂井大将

史上初めてアジア予選で優勝し、10年ぶりにワールドカップ(ワールドユース)の出場権を獲得したこの世代。ここまで追いかける最大のモチベーションとなったのは、坂井大将大分トリニータU-18大分トリニータ)が発足当初からキャプテンを務めてきたということでした。

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↑これまでの経緯はだいたいこの記事に書きました。

 

2試合、99分。今大会の坂井がピッチに立っていた時間です。第1戦・南アフリカ戦では先発フル出場を果たしましたが、その後は第2戦・ウルグアイ戦で終盤に交代出場したのみ。言うまでもなく、苦しい大会になりました。

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原因としては「世界」における立ち位置として、彼の「弱み」が「強み」を上回れなかったためだと思います。すなわち、ボールさばきや中盤で整流子になるという働きは期待できるが、それ以上にフィジカルコンタクトでボールを失うリスクや、守備でボール奪えない弱点が問題視された、ということになります。

 

もっとも個人的には、同情したい気持ちが少なからずあります。

U-15で世代別代表に選ばれてからの約5年間、彼はエリートコースのトップを走ってきました。立ち位置としては「日本人らしいサッカー」の代名詞。「小さくても、技術があれば勝てる」「日本はその方向を目指すべきだ」。そんなお題目で重用されるようになり、ひたすら技術を高めることに特化してきた選手です。

U-17ワールドカップにも出ました。ブラジルワールドカップにも行きました。U-19アジア選手権にも飛び級で選ばれました。そんな経験が買われて、キャプテンの役割も背負うようになりました。「経験を伝える」「日本人らしいサッカーを見せる」。メディアを通じて伝えられるそんな言葉の多さが、彼の両肩に乗っているものの重さを感じさせるようになりました。

 

多くの選手には「下積み時代」というものがあります。けがをしたのをきっかけにフィジカルトレーニングで土台を築く、プロの技術に追いつくために居残り練習を繰り返す、挫折をバネに全く別の環境に身を投じる―。そういったエピソードは日本代表選手にも少なからずあると思います。

ただ、彼には前述のような事情もあり、そういった機会がありませんでした。クラブでは出場機会がなく、下積みの必要性を自覚しながらも、日の丸の重責がそれを許さない。そうして自分に求められるキャプテンシーを学んだり、協会の求める日本人選手になれるような技術を高めたりと、目先のニーズに応える努力を続けてきたように思います。

もちろん、そのおかげでこれほどの経験を積めたわけで、一つの戦略ではあったと思います。しかし、このU-20ワールドカップを機に、「一芸主義」のメリットとデメリットが逆転してしまったように思います。

奇しくもレギュラーとなった市丸瑞希が「対人戦を高めないとガンバでは出られない」と話し、原輝綺が新潟のサイドバックで苦しい経験を積んでいるのを見るにつけ、そんな「余白」が人を大きくするんだなあと実感させられました。

 

もっとも、まだまだ坂井は20歳。プロサッカー選手としては完全に「これからの人」です。

東京五輪世代の旗頭」としての役割は、この大会を機に堂安律へ移ったと思います。もうみんなから後押しされる「協会肝いり」の選手ではありませんし、エリート的な立ち位置からも解放されるでしょう。

それは寂しいことかもしれませんし、厳しい状況かもしれません。だからこそ、一番近くにいる大分トリニータに関わる人には、ずっと味方でいてほしいなと思います。彼がこれからの選手になれるように。

3年後、新しくなった国立競技場で、再び彼の左腕にキャプテンマークが巻かれるように願っています。ひとまず、2年半お疲れ様でした!

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