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たぶんサッカーの話が多いです。

【J2第14節長崎×大分】バトルオブ累積赤字、太い親会社ブーストで蹴散らされ今季初の逆転負け

遅くなりましたが、第14節・長崎戦レビューです。

引っ越し、仕事納め、旅行準備の三重苦(自分のせいですが)により、リアルタイムでは見られませんでしたが、それなりに学びのある試合だったと思います。

ちなみに後半は韓国でDAZN観戦となり、モザイク画質で見ていました。選手はシルエットで何となくわかるんですが、どこか間違っていたらすみません。


バトルオブ累積赤字

社会人街クラブの有明SC国見FCを併合して、Jリーグを狙うために2005年に発足したV・ファーレン長崎。2013年のJ参入初年度には、前年にJFL優勝に導いた佐野達(現・ヴェルスパ大分監督)を切ってまで、創設時からアドバイザーを務めていた地元出身の高木琢也監督を指揮官に据え、そこから今季まで5年間の長期体勢を築いています。

圧倒的な運動量で下支えした対人戦を重視する[3-4-2-1]は初年度から猛威を奮い、初参戦にしてプレーオフ進出という史上唯一の偉業を達成。その後、一時は技術志向に舵を切ろうと低迷し、「あのときと同じだ……」という声も火の国あたりで聞かれましたが、最近は原点回帰で上位に舞い戻ってきています。

J2中堅クラブの悲哀でしょうか、選手は頻繁に入れ替わってしまいます。それでもサイドを中心とした力強いランニングと球際の強さは不変。いまや、J2体育会系軍団のトップランナーとなりました。

もっとも、オンザピッチで着実にキャラクターを定着させてきた一方、オフザピッチは激動のシーズンになっています。春先に起きた単年度赤字による池ノ上俊一社長の退陣騒動に端を発し、クラブハウスで社長が営業していた鍼灸院での不当利得問題、突然下されたオフィシャルライターの出禁処分。これは何かあるに違いないという周囲の推測どおり、ついには3億円の累積赤字まで明らかになってしまいました。

正直なところ、他クラブのサポーターには「お家騒動」にまであまり興味が湧かないところ。しかし、大分トリニータのファンにとって、累積赤字と聞けば黙ってはいられません。「3億くらいでなんだ」「うちは12億だぞ」「それは逆境とは言わない」「もっといらっしゃい」という声が観光庁周辺で聞こえてきそうです。

ちなみに、長崎に関しては「債務超過はない」そうです。本当かよ。(大分は債務超過も6億円だったぞ!どうだ!)←負のマウンティング

ところがそんなことを思っていた4月末、さらに大分サポーターを憤慨させる出来事が起こります。あの有名な「ジャパネットたかた」の高田明元社長がクラブ代表に就任し、すべての赤字を補填して子会社化するというのです。

8年前、大分トリニータは四つ葉系マルチ健康食品を勘弁してもらったり、パチンコは子供に見せられないからダメと断られたり(課金ガチャはOKらしいのに)、5年前にはサポーターが5000円ずつカンパ(1口=5000円だがみんなそれだけとは言っていない)して無理やり昇格するという荒業に出たりした、つらい記憶が思い出されます。

それなのに、長崎は太い実家の父親がポンと3億円(あの時、大分サポーターが出したのと同じ額です)を出して、すべて帳消しにしてしまおうというのです。そのうえ、どんどん事業を拡大していき、今後は楽天カードマンみたいになろうというのです。

たとえ長崎が反動で大金持ちになるとはいえ、借金苦の元祖といえば大分トリニータ。このバトルオブ九州、もとい、バトルオブ累積赤字、けっして負けるわけにはいきません。

 

フォーメーション

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大分は今季13試合目の[3-4-2-1]。MF20小手川宏基がベンチからも外れ、普段はボランチFW48川西翔太がシャドーに入ります。空いた場所には前節・名古屋戦で4点目のアシストをしたMF32前田凌佑。その他は前節と同じ並びです。

MF20小手川が戦術的な理由で外れるとは思えないため、負傷があったのでしょうか。いずれにせよ、ゲームメイクができる貴重な選手がいなくなったため、対人戦で圧倒してくる長崎相手には分が悪くなりました。それにしても前線にけが人が多すぎる……。

長崎もおなじみの[3-4-2-1]。前線はワントップとシャドーというより、センターフォワードとウイングという感じ。前節・千葉戦で0-5の大敗を喫した影響もあったのか、数人を代えてきました。ウイングには大卒1年目のレフティMF18吉岡雅和長崎総合科学大学附属高→駒澤大という黄金ルートです。最終ラインには95ジャパンのDF32北谷史孝が入っています。

要注意人物は何と言ってもFW9ファンマ。188センチという高身長ながら足元の技術も高く、個人で打開できるオールラウンドな能力を持っています。大分のFW9後藤優介、横浜FCのFW9イバらとJ2得点王を争っており、日本人選手の並ぶ大分の守備陣は苦労させられそうです。(むしろ並んでいるごっつぁんがすごい)

 

試合

のびのび展開する長崎と、手詰まりの大分

[5-2-3]でしっかりマークに付いてくる長崎に対し、大分は序盤から攻めあぐねます。ボランチ1枚が下がった最終ラインの4人は長崎の3トップに監視され、中盤では残ったボランチと引いてきたシャドーがきれいに孤立。敵陣深くは5対3の圧倒的な数的不利となり、攻め手がまったく浮かびません。

一方の長崎は、サイド深くへのロングボールとクロスでチャンスを演出。MF15島田譲の左足キックは精度が高いだけでなくスピードもあり、相手ウイングにことごとく通されました。かといってサイドばかりをケアすれば、中央に鎮座するFW9ファンマが待っているのが大分にとっては苦しいところです。

長崎はセットプレーからの得点が全得点の半分を上回っているらしく、CK攻勢は迫力がありました。大分の最終ラインとストーン役のFW18伊佐耕平に加え、この日はとっても読みが冴えていたGK21上福元直人で何とか守りましたが、他のチームであれば決められていてもおかしくなかったと思います。

決定機は長崎『2』、大分『0』。まずは39分、FW9ファンマが大分DF6福森と競り合ったボールを保ち、MF19澤田崇にパス。そのままドリブルでシュートしたシーンは危険でした。また、前半アディショナルタイムには大分のパスミスをDF13乾大知が前線にダイレクトでミドルパス。受けたFW9ファンマに大分守備陣は付いていくのが精一杯で、右ポストを強襲するワールドクラスのシュートまでお見舞いされました。

 

徹底的にマッチアップしてくる相手に弱い

大分は今季序盤、3バックの相手に苦労していましたが、この試合ではその時の記憶がよみがえってきました。四半第1期総括記事にも書きましたが、「人に付いてこられる」という形に弱いのです。[3-4-3]のような形で布陣がかみ合えば、こちらがいかに外してもマークに付きやすくなりますし、実際に愛媛戦や東京V戦、山形戦などがその感じでした。

最近、3バックに弱い印象がなかったのは、湘南戦や松本戦など「ボールを追い回される」という形が多かったためです。前からボールホルダーにプレスが来てくれれば、それだけでマークがずれる形になります。そうすると誰かがスペースを使えるようになり、今季のビルドアップが生きてきます。

長崎はしっかり構えて大分のポジション移動にマンマーク気味に動いてきましたし、4バックポゼッションには片方のウイングが1列下がり、[4-4-2]で合わせてくるようなやり方も備えていました。バチバチ当たるサッカーを軍隊式とか言ったりしますが、指揮官が優秀でないと勝つことはできないってことですね。

 

動きまくる大分と、止まりたい長崎

後半は大分が仕掛けます。3バックを基調に布陣を合わせてくる長崎に対し、シャドーがより自由に動き出す形になりました。

FW48川西が引いてくれば、FW9後藤がサイドに開き、FW18伊佐が裏に抜けていけば、そこにボランチの選手が絡むようになります。あまりに動けばカウンターを受けるリスクは上がりますが、陣形をバランスよく配置したい長崎は付いてくるのが難しくなりました。

修正が初めに表れたのは51分。FW48川西がボランチの位置まで下がってボールを受け、右サイドに展開。FW9後藤らが絡んでクロスを送り、MF33鈴木惇がこぼれ球をボレーで狙いました。前半にはなかったパターンで、相手のプレスを受けずにフィニッシュまで行けました。

また57分には、初めての決定機。これもFW48川西が引いてきて受け、素早くターンでスイッチオン。パスを受けた左のMF16山岸智がドリブルで相手サイドをずるずる後退させ、ピンポイントで送ったグラウンダーのクロスにFW9後藤が反応。惜しくも上に外れましたが、いい感じです。

 

両チームとも交代策で仕切り直し、ついにスコアが動く

大分が優勢となった後半の立ち上がりを受けて、先に長崎の高木監督が動きます。67分、中盤で運動量が落ちていたMF10養父雄仁に代えて、清水アカデミー出身のMF16宮本航汰を投入。大分も連戦を意識してか69分に、フル稼働のMF33鈴木惇に代えてMF17國分伸太郎を入れました。シャドーで精細を欠いていたFW48川西がボランチにかわります。

その後も長崎が72分にMF19吉岡に代えてMF20中村慶太を使うと、大分は74分にMF16山岸→DF29岩田智輝という交代。Jリーグ黎明期でともに広島でプレーしていた指揮官同士の戦いもヒートアップしてきます。それにしても長崎MF20中村のユニフォームネーム、「KE-TA」表記ってすごいな……。

そんな76分、ついに試合が動きます。右サイドでMF14岸田が倒されて得たFKを、FW9後藤がペナルティエリア内に鋭いキック。ファー気味からスルッと斜めに入ってきたDF4竹内彬がきれいに頭で合わせました。頼れる番人の今季初ゴールが貴重な先制点です。

 

息を吹き返す長崎、受けに回る大分

 得点直後から再び長崎が攻勢に入ります。後半に入って自重気味だった強い当たりがここで復活。対する大分はリスクを避けてかポジションチェンジを自重するようになり、一方的に相手の前向きな展開を受けてしまう形となりました。

「ズルズル下がるのはまずい」と大分の選手たちも分かっているはずですが、相手のハイプレスが思考時間を奪います。大きな展開で相手のプレスをかいくぐろうとはしてみるものの、後ろの選手が付いてこれずに相手にボールを渡すのみ。典型的に「得点後の立ち上がりは危険」という雰囲気になってしまいました。

そんな80分、長崎は左サイドからのロングスローで均衡を取り戻します。ふわっと浮かんできたボールに大分FW48川西がクリアミス。真後ろで拾ったFW9ファンマをすぐに追いかけますが、後ろから倒してしまってPKとなりました。高木監督が「落ち着け」とばかりに送り出したFW9ファンマが左に強キック。きれいに決まって同点です。

 

底力が勝負を決したラスト15分

ここからはまさに「気持ちとの戦い」。長崎はウイングのMF19澤田に代えてMF6前田悠佑で[5-3-2]に布陣を変えると、大分はFW18伊佐→FW11林容平で機動力をアップ。両チームとも交代カードを使い切って、ピッチ内の選手たちにすべてを委ねます。余談ですが、前田○佑同士がマッチアップするという珍しいかみ合わせになりました。

大分はいつもどおりのビルドアップからFW9後藤のターンに結びつける形、攻めきった後のセットプレーなどでチャンスを創出。アディショナルタイムにDF5鈴木義のミドルパスにFW11林がダイレクトで落とし、FW9後藤が抜け出すシーンは決定的でしたが、長崎GK増田卓也に阻まれました。

一方の長崎はなりふり構わず前進する狙い。相手CKからのカウンターをMF20中村が独力突破で突破しようとした場面、右サイドをMF3飯尾竜太朗がドリブルで持ち上がろうとした場面、ともに他にもパスコースはありましたが独善的な凡ミスでチャンスをフイにしてしまいました。

そんな最終盤、やっぱり試合を動かしたのはエースでした。長崎は右サイドに開いたFW9ファンマが後方からパスを受けるかのように見せかけ、スルーからの反転で単独突破。早めに上げたクロスは大分DF6福森が中途半端な処理となり、拾ったMF3飯尾がドリブルで仕掛けると大分DF29岩田がたまらずファウル。2本めのPKが与えられました。

ここでファウルをゲットしたMF3飯尾は大きなガッツポーズ。直前のプレーでドリブルをミスしてチャンスを無駄にしてしまいましたが、その積極性がここで生きました。そうえば、前半にもペナルティエリア近くで上手にファウルをもらってFKをもらう場面がありました。決して突出した身体能力やスキルがあるわけではありませんが、反町康治高木琢也という両指揮官に信頼される存在であることが分かります。

このPKを蹴るのは、1本目と同じFW9ファンマ。ペナルティスポットのボールの設置場所でひと悶着あり、高木監督が抑えていた「いらんことしい」な一面が垣間見えます。大分の守備陣もそれを見抜いて、猛烈な抗議で攪乱作戦を敢行。GK21上福元も小刻みな動きでプレッシャーをかけます。

そんな状態でのキックは予想通りというべきか、中央右に飛んでいってGK21上福元がストップ。最後の最後でビッグプレーが出ました。ところが、そのこぼれ球が長崎MF20中村のもとへ。冷静に押し込んで2-1となりました。またもや、直前にミスをした選手が名誉を取り戻す働きです。

(あれ……?)

という大分の抗議もむなしく、キックオフはされないまま試合終了のホイッスル。長崎の劇的な逆転勝利となりました。

(アプリ入れまくったパソコンとか型落ちのカーナビとか下取り+工事で利益率を上げたエアコンとか使い所のよく分からない布団とかを老人に売ったお金で審判を買ったんだな!!!!!とか言ってはいけません。)

 

最後に

ミスジャッジこそありましたが、最終盤に見せられた長崎の圧力は見事でした。とくにMF20中村、MF3飯尾のような、ミスを恐れない果敢なプレーは最近の大分に見られないものだと思います。

そんな中、ずっと思い悩んだ感じだったDF29岩田がオーバーラップやミドルシュート、クロスからのヘディングなど、前向きなプレーを随所に出していたのはポジティブな点だったと思います。最後は相手の狡猾さに屈してしまいましたが、これに懲りずに思い切ったプレーを続けてほしいです。

次節で対戦する町田には井上裕大、増田繁人ら、かつて大分に所属していた選手がいます。なにより、J3に降格するきっかけを直接的に与えられたクラブでもあります。片野坂監督を中心に賢く、うまく戦っている今季ですが、しぶとく、強く闘える試合にも期待したいです。