【J2第1節 福岡×大分】今季は流行りの筋肉で勝つ【どこよりも遅い開幕戦レビュー】
2017年、大分トリニータがJ2の舞台に帰ってきました。
開幕前にあったスカパー!特番の順位予想で多くの識者から降格候補に挙げられ、アマチュア選手も多く在籍する「3部リーグ」で過ごした一年の重みを感じます。
他クラブからの「大分は不気味だぞ」という視線も感じつつも、年30試合から年42試合の世界に来たということで、まずは残留を目標に定めて謙虚に戦っていく必要があろうと思います。
2017大分トリニータ陣容
開幕戦について語る前に、今季のメンバーを簡単におさらいしておきます。
2017トリニータ
— C (@catenazioni) 2017年1月23日
GK:修行、上福元、高木駿
DF:竹内彬、山口、黒木恭平、岸田翔平、坂井達弥、福森、鈴木義、佐藤、岩田
MF:山岸、黄、松本、鈴木惇、清本、前田凌佑、國分伸太郎、姫野、坂井大、野上拓哉
FW:三平、川西翔太、林容平、小手川宏基、伊佐、後藤、大津、吉平
目立った放出は八反田康平(名古屋)と松本昌也(磐田)のみ。年間予算7億円規模と厳しい台所事情にあって、昇格ボーナスで流出を食い止めたのは評価できるところです。
一方の補強はセンターラインが中心。GK高木駿(川崎F)、DF竹内彬(名古屋)、MF前田凌佑(神戸)、FW林容平(FC東京)あたりはJ1クラブの控え選手を引き抜いており、いずれもJ2の先発を張るには十分な力量です。
特筆すべき点としては外国籍選手が在日枠の黄誠秀を除いて一人もいないところです。これまで韓国人、ブラジル人のいずれかを中心としてきたクラブにあって、歴史的な転機です。
片野坂知宏監督や西山哲平強化部長の発言を見るに「難しいサッカーをするから言葉が通じるヤツがいいぞ」(意訳)ということなのでしょうが、外国人で殴り勝つというクラブが多いJ2リーグにあって、不安はぬぐい切れません。
(神戸に来た元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキの年俸だけで全人件費の2倍くらいになるので、そもそも金がなくて憎いって話でもあるが)
加えて、ユース出身選手がようやく10人に到達しました。血が濃くなりすぎるのは問題ですが、金がないからと節操なく有望選手を獲得するよりは、見知った選手に声をかけるのは良いことだと思います。(野上かわいいよ野上)
ユース時代の野上拓哉。大分トリニータ公式サイト(http://www.oita-trinita.co.jp/youth/u18/gallery/?smonth=2016-09より)
J2第1節 アビスパ福岡×大分トリニータ
「どこよりも遅い」ので結果をもったいぶる必要はなく、後半アディショナルタイムの劇的弾により2-1で勝ちました。相手がJ1降格組の福岡だったことを思えば、大番狂わせといっても過言ではないでしょう。
リアルタイムでは羽田空港の無料Wi-Fiや自分のWiMAXを使ってDAZNで見ていたんですが、止まりまくってほとんど話にならなかったので、自宅に帰ってきてPS4の視聴設定をしてから大画面で見ました。(ヒント:ドイツ語アカウント)
サポーター度を試されている。(全員わかった) pic.twitter.com/9bbQYI6S02
— C (@catenazioni) 2017年2月26日
この試合の勝因としては、
- 福岡のフィジカルコンディションが低く、対人戦で上回ることができたこと
- 福岡の攻撃バリエーションが少なく、対人戦に集中できたこと
- 相手の圧力をいなして、素早く前に出て行く戦術的準備が奏功したこと
が挙げられると思います。以下でざっくり書きます。(長いので読まなくていいです)
フォーメーション
福岡の[4-4-2]に対して、大分は[3-4-2-1]。片野坂監督が広島でコーチをしていた際にも採用されていた、いわゆる「ミシャ式」です。[4-4-2]が中心だった昨季も何度か見た形ですが、開幕からということは今季は本格的に展開していくのでしょう。
J1昇格した2012年にも田坂和昭監督がこのフォーメーションをしいていましたが、ほぼ別物だと考えたほうが良さそうです。
当時は最終ラインの3枚が横パスで組み立て、相手が追ってきたときはウイングバックが下がってくるという形でした。今回はウイングバックが前に張り出して、ビルドアップはボランチが担います。
違いとしては「誰がボールを握って、誰が展開するか」というところにあります。田坂仕様はストッパーとウイングバックにテクニカルな選手を置き、ボランチとウイングはファイターが担います。一方の片野坂仕様はボランチとウイングで試合を落ち着け、ウイングバックとストッパーは闘える選手です。
もっとも、田坂仕様も宮沢正史(3/6訂正:和史ってなんだよ島唄かよ)をアンカーに入れてからは中盤中央で握る場面も増え、2トップ後方のシャドーにファイターを配置するなど、戦術的な多様性を持つようになります。片野坂監督もこのままシーズンを戦い切るつもりはないでしょう。
フィジカルで殴り勝ち
福岡にはウェリントン、岩下敬輔、石津大介など身体の強さに定評のある選手がいること、大分には外国籍選手が居ないことから、戦前は「フィジカルの福岡に、技術の大分が挑む」という構図になることを予想していました。しかし、実際はまったく逆の展開となり、大分が対人戦で上回るという不思議な結果になりました。
なんといっても、福岡の後方から2トップに出てくるロングボールに対して、大分の3バックがほぼ完璧に競り勝ちました。驚きだったのは竹内の高さと判断力。180cmとCBにしては目立った上背はないですが、凄まじい跳躍力と正確なヘディングスキルでボールを跳ね返し続けました。竹内が出た際に2人のストッパーが絞り、ウイングバックが引いてきていたことから、空中戦の分業は準備がなされていたのだと思います。
また、相手サイドハーフへの深いパスもストッパー2人が潰しに出て、ウイングバックとボランチでスペースを埋めるという動きも見られました。その際にも、ストッパー2人が裏を取られたり、背負われたりするような場面はほとんどなく、一対一は安心して見ることができました。
試合は全得点がセットプレーで決まりましたが、そんな「事故」を多く起こすことができたのも大分のほうでした。福岡は駒野友一の精度の高いCKをゴール前のカオスで受けるという形でしたが、大分のGK高木駿があたふたしながらもうまく対応したと思います。上背不足と手回りの危うさは気になりますが、そのぶんしっかり動けるのでしばらくは正GKになりそうです。
走り合いでも完勝
受けに回った場合の対人戦で勝つことができても、攻める動作がなければ試合には勝てません。しかし、攻める動作を起こせば攻められるリスクも大きくなり、そこでは戻りながらの守備が大切になります。
出色の働きを見せたのは左ウイングバックの松本怜でした。攻めては逆足の左足で鋭いクロスを何本も配給し、FKのこぼれ球から先制のミドルシュート。守っては試合の最終盤までスピードが落ちることなく、何度も全速力で戻る姿が見られました。
50メートルを6秒足らずで走る(という)スピードに追いかけられれば、攻める相手も気になるもの。判断を早まってパスミスをしたり、奪い切れなくとも攻撃を遅らせるシーンが目立ちました。
青森育ち、早稲田卒、港町が似合うオシャレな道産子スピードスターも今季は29歳。マリノス感あふれるド金髪(大黒とか小林祐三を思い出す)とともに飛躍の年にしてもらいたいです。逆サイドのエリート岩田智輝(クロスを全てニアの敵に当てていたのは逆にすごい)も、かつてのエリートが姿を変えながら輝きを放つ姿を見て、何かを感じてくれればいいなと願います。
正しい規律は強靭な筋肉があってこそ
圧倒した対人戦と走り合いを支えたコンディションの良さは、片野坂監督が導入している「戦術的ピリオダイゼーション」と呼ばれるルーティーンのトレーニング法が生きているのかなと思います。ハードワークに裏打ちされた戦術は、どんなに発想が優れていても、いい筋肉がなければ遂行できません(!)。
一方で福岡の攻撃陣はまだトップコンディションではなかったのでしょう。カムバック・マリヤン!というわけでもないのでしょうが、さすがにここからエンジンがかかってくることと思います(俺のウェリントンがこんなに弱くて遅いはずがない的な発想。でも入場の時に連れてた子どもはこの日もめっちゃ可愛かった)
また、福岡の問題としては、攻撃パターンが淡白すぎるようにも思われました。基本的には、サイドハーフが絞って受けてサイドバックが外を回っていくか、後方からのフィードで2トップに当てるか―の2パターン。推進力を持った選手が多いにもかかわらず、そうやって立ち止まった状態のプレーが多かったことが、フィジカルで後れをとった原因だとみられます。(あと邦本がめっちゃ太っていてビビった)
今季のプレーモデルと課題
攻撃パターン
セットプレーで決まった試合だったので勝因は守備面をピックアップしてしまいがちですが、攻撃の狙いも明確に見られました。片野坂監督は「アイデアで解決しろ!」というタイプでもなさそうなので、おそらく一試合限りの意図ではないことでしょう。主なパターンは3つ。
- トップが降りてきてフリック、裏に抜けるウイングにつなぐ(たぶん最優先)
- トップが落としたボールを、ボランチがサイド裏のウイングに展開してクロス
- サイドで組み立てたボールをサイドチェンジで逆ウイングバックに送ってクロス
基本的には[3-4-2-1]のフォーメーションで定石的なことしかしていないのですが、目立っていたのは「1」の狙いでした。
レスター・シティーに似ている(他の試合を見ていないせいかも)という印象を持ったのですが、とにかくダイレクトで「はたく」「すらす」というプレーが目に付きます。ボランチの姫野宥弥以外はパスの精度もかなり高く、福岡の守備陣は追い切れていませんでした。
もっとも、中途半端に追うから追い切れなくなるわけで、最初から4枚で構えれば2枚の裏抜けには対応することができます。このあたりは2戦目から合わせてこられるはずで、そのなかでどう攻めるかが大事になってくると思います。(トリテンの林容平インタビューはそのあたりも含めて参考になるが、何をやりたいかまでめっちゃ詳しすぎたので、細かく引用はしない)
ボランチ問題
福岡から期限付き移籍の鈴木惇が出場できないこともあったのでしょうが、小手川宏基と姫野宥弥というボランチ起用にも意図が見られます。小手川はテクニシャンでボール扱いがうまいタイプ、姫野はタックルもできるハードワーカーです。いずれも身長が低いため、競り合いではフォローが必要になります。
開幕戦ではまずまずの出来だったと思います。3バックがしっかり出てきて競ってくれたことが前提でしたが、小手川は50:50のボールをしっかり落ち着けることができ、姫野は地上戦で石津とウェリントンを追いかけ回しました。交代が早かったのは課題にもなりますが、代わって出てきた前田凌佑は「どこにそんな筋肉があるんだ」と思えるほど、軸がしっかりしていてボールを狩ることができていました。
もっとも、ボランチの低身長はセットプレーの守備にも影響してきますし、空中戦でも狙われやすいところでしょう。FW起用しか見たことのない川西翔太をはじめ、リード/ビハインドの状況を含めた90分間のマネジメントを、いろんな特長を噛み合わせながらやっていく必要があると思います。
今後の展望
フルスロットルで勝った開幕戦ですが、ちょっとうまくいきすぎた感もあります。
これから相手の出方もうかがう展開になるでしょうし、夏に向けて走り勝てなくなることもあるでしょう。当面は上に挙げたような点に注目しながら見ていこうかなと思います。
というわけで、第2節・東京V戦は午後3時キックオフ!(間に合った)