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たぶんサッカーの話が多いです。

生きるか死ぬかの大勝負では生き様よりも死に方を考えてしまうのか問題 ― EURO2016 Round16 Day1

各組3位でも通過できるという普段より緩めのグループステージが終わって、これまでと同様に負ければ終わりのトーナメントが始まった。ここからは目の前の一試合が絶対的な重要さを持つようになる半面、どのチームも負けないために得点よりも失点を気にするところ。観衆にとってサッカーの魅力を派手な得点に見出すか、ジリジリとした接戦に見出すかは好みが分かれるが、チーム当事者が優勝を手にするためには負けずに先に進むしかない。すなわち、われわれは両チームが結託して前半を殺しにかかったとしても、眠気を打ち破るための準備をしておくくらいしかないのである。16チーム中15チームの犠牲を含めて大会のすべてを楽しむべく、各国がどうやって勝ち進んでいくかだけでなく、どのように負けるかにも注目していきたいところです。

 

・スイス×ポーランド

序盤から両者ともにごちゃごちゃとしたプレーを繰り広げていたが、先制したのは下馬評優勢のポーランド。セットプレーのカウンターから、グループステージに続いてブワシュチコフスキが決めた。後半に入ってもカオス状態は変わらず。テンションばかり高くなる一方で互いの精度は上がらなかったが、混戦状態でのスイスのスーパープレーで試合が動く。クロスからのセカンドボールに対して、小兵シャキリが下がりながらのオーバーヘッドで左足を一閃。右ゴールポストギリギリにノーバウンドで突き刺した。今大会最高級のゴラッソだ。そのまま1-1で突入した延長戦はスイスが優勢。それでも途中出場のデルディヨクが何度もチャンスを作るが決めきれず、勝ち抜けチームの決定はPK戦に委ねられた。決まったのは先攻スイスの2人目、アーセナル内定済のジャカが大きく左上に外してしまう。そのまま他は全員が決めてポーランドの進出が決まった。

試合については「トーナメントらしい泥仕合」以外の感想はないけど、シャキリのオーバーヘッドは見事だった。難しい体勢での強シュートを放った技術もさることながら、ビハインドの状況でシュートの選択肢をチャレンジできたのも賞賛されるべき。PK戦前に実況が「今大会屈指の両GK」と言っていたが、きっとファビアンスキを使ったり使わなかったりした経験が豊富なベンゲルさんくらいしか納得できなかったと思う。ゾマーはいいGKだが失点は股を抜かれていた。そしてビッグクラブ内定のジャカがPKを外したのはお約束。もっともその役割はジュルーがやってくれると思っていたけれど……。

余談ですがバックスタンドのポーランド側にドイツ国旗が出ていたのはどうなのだろうと思った。どうしてもWWⅡでドイツ軍が侵攻した史実や、戦後の共産主義化の歴史を想起させるし、筋の悪い皮肉としか捉えようがない。ちなみにドイツとのグループステージの対戦では両者スコアレスで決着しなかったが、トーナメントで対戦するとしたら決勝ということになる模様。

 

ウェールズ×北アイルランド

ラムジー→ベイルとつないでからのグラウンダークロスに対して、北アイルランドDFマコーリーがオウンゴール。後ろにロブソン・カヌがいたのでやむを得ない形ではあったが、これが決勝点となってウェールズがベスト8進出を決めた。全体としては北アイルランドの守備陣がウェールズ攻撃陣を防ぎ続けたのが目立った。

ウェールズはどんどん調子を上げていくラムジーの長短パスを中心に攻撃を組み立て、守備でもがっちり固めたブロックで全員が強度と集中を欠かさない良いチーム。飛び道具一発とスピードのあるベイル(私と誕生日が5日違い)は言うまでもないが、浮遊系バランサーのアレン(バンドマンっぽい)、小さいのに重心感がある左ウイングのテイラー(たまにめちゃくちゃ上がる)、キャプテンのアシュリー・ウイリアムズ(とにかく顔が濃い)など、個性のある好選手が並んでいる。それにしてもラムジーの働く王様感は中堅国代表チームっぽくてすごく良い。

国民投票によるEU離脱で沸き立つイギリスだが、ここでまさかのユナイテッド・キングダム同士の対戦だった。ただでさえ政府の主義主張とは異なる区域分けの両者、政情が選手の意識に影響を及ぼすことは避けられなかっただろう。それでもサポーターはお互いに友好的なムードがあるようで、特段の混乱は見られなかった。とくに北アイルランドについてはIRAのイメージが大きかったのだけど、緑色に包まれたスタンドの雰囲気はとても良かった。チャントも名曲ぞろい。

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EU離脱については北アイルランドは全員、ウェールズはベイル以外がUK内でプレーしており、すぐに労働契約に影響が出ることはなさそうなのは幸い。それでもレフェリーはイングランドからの派遣となっており、この対戦には因縁を感じざるを得なかった。

北アイルランドについては生真面目な組織力だけでなく、やはりサポーターの熱さに尽きる。

www.irishtimes.com

「夢の旅路は終わったが、北アイルランドのサポーターは忘れられない」。ドイツ人が北アイルランドにハマっちゃった良い話。

 

ポルトガル×クロアチア

 常にスローテンポなまま選手単位がぶつかり合う展開で90分間を0-0で終えたが、延長後半にようやくスコアが動いた。自陣深くでクアレスマクリスティアーノ・ロナウドクロアチアからボールを奪うと、カウンターで途中出場のレナト・サンシェスが受けて中央を持ち上がる。右サイドを走るロナウドを意識しつつ、左を上がったナニにパス。ここしかないスペースをアウトサイドで通した先は再びロナウド、ダイレクトで打ったシュートはGKに防がれるも、ゴール前にロングランのクアレスマが頭プッシュで決めた。1-0でゲームセットを迎えて、ポルトガルは今大会初勝利。90分間勝利のないままベスト8進出を決めた。

序盤からお互いに大きなリスクを避けた戦い方で、見どころは局面の1対1のみといったトーナメントらしい展開だった。グループリーグ4失点と守備に課題を抱えるポルトガルが、スペインに勝利して優勝候補に挙げる声も増えてきたクロアチアに対し、ラキティッチモドリッチら技巧派攻撃陣を押さえにかかるという現実的な手段に出たことが要因。それは絶対的エースのロナウドが放ったシュートが得点シーンの1本にとどまっていたことにも表れている。強いときのブラジルっぽい。

UEFAが選んだマン・オブ・ザ・マッチはサンシェスらしいが、途中出場の18歳が見せたプレーはそれに十分に値する出来。強いフィジカルから繰り出されるタックルと、リスクの少ないボールキープで、終盤からは試合の中心に君臨し続けた。バイエルン・ミュンヘンへの移籍が決まっているようだが、量産型ハイスペックセントラルハーフへの階段を駆け上がって、ついでに変な監督人事に巻き込まれるなどビッグクラブを満喫してほしい。

クロアチアグループリーグでスペインに勝利したことで評価が爆上がりしていたなかでの悔しい敗退。しっかりとした組織にモチベーションと個人能力が調和しており、高評価に違わぬクオリティーだったが、試合を殺しに来た相手に対するゲームマネジメントを発揮することはできなかった。これも急造監督の宿命か。協会とサポーターがしっちゃかめっちゃかにするところも含めてこのチームなので、後片付けは長束恭行さんのツイッターを楽しみにしたい。

 

2試合目の終盤に寝落ちしてしまいました。やはり凡戦は凡戦中ではなく次の試合あたりで響いてくる模様。グループステージでは強者×弱者というシンプルな指向性を持った戦い方が見られるが、戦力が拮抗した大会のトーナメントは弱者×弱者といった戦い方になりやすい。早々と勝負を決めて延長の疲労を避けたい気持ちはあるのだろうが、勝つことより負けないことへの配慮が求められているのが時代の流れらしい。今後もリスクを負った殴り合いは期待できないため、視聴者は一日をどう過ごすかといった長期的な眠気マネジメントが求められている。