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たぶんサッカーの話が多いです。

消化試合のないグループリーグが新鮮すぎてこんなに楽しんでいいのかと戸惑う ― EURO2016 Day13

最終戦ながら全てのチームに決勝トーナメント進出の可能性があるというのは、エンターテインメントの観点からいえば絶対的に正しい。3位通過のラインはおおむね「勝ち点3」。すると連敗で最終戦を迎えたチームも、フルモチベーションで試合に臨める。下位が捨て試合を作れないということは、進出を決定づけた上位チームも油断することができない。すなわちグループリーグのテンションは全体的に高まる。

もちろん単純にトーナメントの試合数が多くなるということは、選手層の厚さが必要以上に重視されてしまうという批判が出るかもしれない。また、3位チームの一部が通過するという仕様では、他グループの結果を見て試合に臨めることが圧倒的に有利になるため、組み分けに大きな不公平が出てしまうという問題もある。そもそもグループリーグなのに他グループとの成績比較が出てくるのは本末転倒なのではないかという話でもある。さらにはこの制度がもっと熟してくれば、強豪チームはグループステージをウォーミングアップ代わりに使うようになってしまうだろう。

しかし、私はとにかくこの改革を支持したい。そんなふうに思わせてくれる、熱くて激しいグループリーグ最終日だった。

 

アイスランド×オーストリア

歴史的な熱戦だった。前半にグンナルソン得意のロングスローから先制したアイスランドだったが、後半の早い段階でシェップのドリブルシュートで同点とされる。その後も通過には勝利が必要なオーストリアに攻められ続けたが、アディショナルタイムにセットプレーのクリアから3対2(後者うち一人はGK)の圧倒的数的優位カウンターを決めきって勝ち越し。人口33万人、サッカー人口3万人のアイスランドが劇的な勝利で2位に滑り込んだ。

アイスランドの魅力はとにかくサポーター。おいおい爆竹でもやってんじゃないかといった轟音が鳴り響く、ゆったりとしたペースの手拍子は、不気味な雰囲気を醸し出し、スタジアムのムードを完全に持っていく。勝利後に全員でサポーターのもとに並んだ選手とともに手を叩く光景は神々しいさまであった。

このチームで最も目立つのはグンナルソンのロングスロー。自陣深くからでも繰り出せる圧倒的な武器だが、2014年に日本で行われたキリンカップではソルステインソン(言うまでもなく~ソン)のハンドスプリングスローが話題となった。選手の名前がほとんど「~ソン」であるだけでなく、国歌の作詞作曲者も「~ソン」のこの国では、きっとスローインで個性を出していく文化があるんだと思う。


ハンドスプリングスローすげえwwwwwww

あらためて見るとお客さんは沸きすぎだし、ジャパニーズスタイルの陸上競技場がここまで役に立つことはなかなかないと思う。後半44分になってもこれほどの強肩を誇るスタミナには「大谷」という二つ名を授けたい。

オーストリアはこれまでボランチ、トップ下を務めていたアラバ(童顔)がついにセンターフォワードで先発。アルプスの岩田智輝と呼ばれていることと思われる。後半からはボランチに下がったのでこれは間違いない。チームとしてはカウンターで良いシーンもあったが、パワープレーをはじめとするロングボールは徹底的にうまくいかなかった。個の能力は感じられただけに残念。

 

ポルトガル×ハンガリー

今大会最大の点の取り合いとなった。ハンガリーの元フラム戦士・ゲラがグラウンダーのミドルシュートを叩き込んで開戦。ストライカーっぽい動きから綺麗に左足で合わせたナニがすぐさま同点とする。その後ジュジャークのFKが壁に当たって入り、ハンガリーの1点リードで前半終了。後半はようやくポルトガルのエース、クリスティアーノ・ロナウドが覚醒する。1点目はおしゃれヒールでポルトガルを再び同点に。ジュジャークにまたしてもディフレクションのミドルシュートを決められたが、2点目のスーパー跳躍ヘッドで三度追いつき3‐3で試合を終えた。2004年大会からの4大会連続得点はEURO史上初らしい。

ポルトガルはまさかの3位だが、原因はとにかくザルすぎること。斜めからの攻撃に対してまったく対応できず、ほとんどのボールがゴールマウスまで到達した。守備陣と攻撃陣の連係も悪く、いわゆる「3人目の動き」は皆無。苦しまぎれの突破でファウルを得ても、ロナウドのFKは入る気配ゼロナウドだった。唯一の好材料はナニの好調。アレクシス・サンチェスを見ているようなアジリティとシュートセンス。

ハンガリーは地味ながらも崩れない組織を生かして堂々の首位通過。大会最年長出場記録を更新し続けているGKキラーイのトレーニングパンツはどう見ても体育教官の休日ファッションだが、後ろから見張られていると気持ちが締まるのかもしれない。こういう顔の主審、プレミアリーグでよく見る気がする。

 

・ベルギー×スウェーデン

終盤にセカンドボールからナインゴランがミドルシュートを突き刺してベルギーが勝利を収めた。初戦で敗れてからの2連勝は今大会唯一で、悪い流れを断ち切ったことで地力を示した。スウェーデンは勝ちなしで4位。

ベルギーは相変わらずボールを持つと攻撃のアイデアがまったく出ず、前線はかなり停滞した雰囲気を見せていた。あまり選手間でコミュニケーションを取る様子が見られないが、地域や民族の問題などがあって仲が悪いのだろうか。それでもカウンターの切れ味はさすがで、アザールルカクだけでほぼ完遂できていた。省エネ。デ・ブライネは止まった場面からでも違いが作れる動き出しをしていたが、いいパスがあまり来なかったので効果なし。トーナメントでどう出るか。

スウェーデンイブラヒモビッチの代表ラストダンス。全員がエースのためにボールをつなぐ意識を持っており、トーナメント進出よりもボスの花道を飾りたいという気持ちが強く出ていたか。それでもイブラヒモビッチ自身の動きが悪く、得意のキープは影を潜めるなど決定的な仕事はできなかった。果たしてこの人のピークはいつだったのだろうと考えていたが、「レジェンド」になったらしいパリよりも、ミラノでの仕事を評価したいという気持ち。パリでの活躍は指摘するまでもないが、世界水準ではどのようなレベルだったのか判断できずにいる。それでもひとまずお疲れさまでした、代表62ゴールなんて立派すぎるぜ。

余談だけど野口幸司解説員がとても良いです。見た目はかなりアク強めだし、ちょっとした抑揚がしつこく感じるときもあるが、シンプルに見るべきところを指摘してくれるのでありがたい。アナウンサーは選ぶタイプかもしれない。

 

・イタリア×アイルランド

ちょうどベルギーが得点したくらいの終盤に、アーリークロスからブレイディのヘッドが決まってアイルランドが大金星。死の組での堂々の勝ち点4で3位通過の最後の椅子を勝ち取った。今大会からのレギュレーションで最後に生き残ったためか、試合終了後も奇跡に大喜びのアイルランドサポーターがずっと大映しになっていた。自国だったらうれしかったんだろうなあ。(微妙にイタリアひいきになりつつあるし眠かった……)

すでに首位通過を決めているイタリアはメンバーを大幅変更。GKはブッフォンでなくシリグ、ストッパーもキエッリーニではなくオグボンナ。前線にもこれまで出場のなかった面々が並んだ。おかげで連携は最悪に近い出来。生命線のプレスが連動しないことでサイドから自陣深くまで攻め込まれ、ゴール前の詰め方もゆるい場面が目立った。またせっかくボールを奪っても斜めに出るパスコースがうまく作れず、素早い攻撃シーンはほとんどなかった。一番の見どころはベンチで国歌を熱唱するブッフォン。「Si!」を映してほしかった。

アイルランドは気合の勝利。イタリアの守備の穴を突いているといえば聞こえは良いが、要するに敵陣にできるだけ多くの人数で走り込むというカミカゼ攻撃。それでも最後まで走り抜いたのはお見事というほかない。終盤にロビーキーン(こんなに胸板すごい人だっけ)が出てきたのもメンタル的に大きかったか。2002年W杯日韓大会のドイツ戦を思い出した。最後にひとつ。マーティン・オニールが爆発的に喜んでいる姿はちょっとだけ、涙が出そうでした。

 

土曜日からはトーナメント。ここからが本番だけど、これまでも楽しかったです。せっかく中小国を引き続き見られるのだから、微妙に肩入れしつつ見るような気がする。1日3試合に戻るが体調には気を付けたい。